古英語メモ:名詞:不規則変化

古英語
古英語学習の覚書です。はじめての方は、サイドの管理人紹介欄をお読みください。

不規則変化

i-ウムラウト(i-mutation)

・屈折語尾でなく、i-ウムラウトによる語形変化をする名詞がある。

・i-ウムラウト(i-mutation)とは、アクセントのある母音が、後に続く i(j)音の影響を受けて、それに近い音に変わる現象。

前舌後舌
i, yu
eo
æa

・長母音も同様。上のほか、am/an は em/en に、ea/eo は ie となる。

・先史時代に起こったもので、古英語文献の段階では、その原因となったであろう i(j)音は既になく、結果だけが残っている状態である。

fōt(foot)〔男〕
SGPL
fōt フォートfēt フェート
fōt フォートfēt フェート
fōt-es フォーテスfōt-a フォータ
fēt フェートfōt-um フォートゥム
bōc(book)〔女〕
SGPL
bōc ボークbēċ ベーチ
bōc ボークbēċ ベーチ
bēċ ベーチ, bōc-e ボーケbōc-a ボーカ
bēċ ベーチbōc-um ボークム

-nd 終わり

・現在分詞に由来する fēond(敵)〔男〕、frīend フリーエンド(friend)〔男〕は、おおむね stān に倣うが、単数の与格、複数の主格・対格で i-ウムラウトによる形をもつ。また、単複で主対が同形になることがある。

fēond(敵)〔男〕
SGPL
fēond フェーオンドfīend フィーエンド, fēond フェーオンド
fēond フェーオンドfīend フィーエンド, fēond フェーオンド
fēond-es フェーオンデスfēond-a フェーオンダ
fīend フィーエンド, fēond-e フェーオンデ fēond-um フェーオンドゥム

親族名称

brōþor(brother)〔男〕
SGPL
brōþor ブローゾルbrōþor ブローゾル, brōþr-u ブローズル
brōþor ブローゾルbrōþor ブローゾル, brōþr-u ブローズル
brōþor ブローゾルbrōþr-a ブローズラ
brēþer ブレーゼルbrōþr-um ブローズルム

dohtor ドホトル(daughter)〔女〕、mōdor モードル(mother)〔女〕は、おおむね上に倣う。ただし以下。

dohtor >単属 dohtor/dehter, 単与 dehter/dohtor, 複主対 dohtor/dohtr-a/dohtr-u
mōdor >単属 mōdor/mēder, 単与 mēder, 複主対 mōdor/mōdr-a/mōdr-u

・なお、以下の親族名称については、i-ウムラウトによる形はない。

sweostor スウェオストル(sister)〔女〕は、おおむね brōþor に倣うが、単数は無変化である。

fæder ファデル(father)〔男〕は、単数でほぼ無変化(属で -es をとる場合あり)、複数は stān に倣う。

単数の属・与格が -a 終わり

・全体的に -a 終わり。短語幹には -u がつき、長語幹にはつかない。

sunu(sun)〔男〕
SGPL
sun-u スヌsun-a スナ
sun-u スヌsun-a スナ
sun-a スナsun-a スナ
sun-a スナsun-um スヌム
hand(hand)〔女〕
SGPL
hand ハンドhand-a ハンダ
hand ハンドhand-a ハンダ
hand-a ハンダhand-a ハンダ
hand-a ハンダhand-um ハンドゥム

複数形で r が入る

ǣġ(egg)〔中〕
SGPL
ǣġ エァーイǣġ-ru エァーイル
ǣġ エァーイǣġ-ru エァーイル
ǣġ-es エァーイェスǣġ-ra エァーイラ
ǣġ-e エァーイェǣġ-rum エァーイルム

ċild チルド(child)〔中〕は、上に倣うと共に、普通の強変化中性、または男性として変化することもある。← r が入らない。

参考資料

・近藤健二・藤原保明(2003)『古英語の初歩』(英語学入門講座第4巻)荒木一雄監修, 英潮社.

・Mitchell, B., Robinson, F. C.(1992)A Guide to Old English, Fifth Edition. Oxford: Blackwell Publishers Ltd.