古ノルド語メモ:動詞:一般的注意、強変化動詞

古ノルド語
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一般的注意

・動詞は、(直説・接続・命令)、時制(現在・過去)、(能動・中動)、人称(1・2・3)、(単・複)によって語形変化(活用)する。

以下では、直説法・能動態については、表記を省略する。(直説法)現在(能動態)

・無変化の不定詞と、形容詞変化の現在分詞(能動)・過去分詞(受動)がある。

・語形変化の仕方により、変化、変化、過去現在、不規則の4種類に分けられる。

・強変化・弱変化の別は、おおむね過去形・過去分詞の語幹をどう作るかの違いである。

強変化動詞

・強変化は、過去形(および過去分詞)を作るにあたり、語幹の母音を交替させる。

・母音の交替は、以下のポイントで特徴的にみられる。これをもって代表形とすることが多い。

不定詞bít-a
過去単数beit(1/3単)
過去複数bit-u(1複)
過去分詞bit-inn

・強変化は、母音交替のパターンにより、以下のように分類される。

不定詞過去単過去複過去分詞
1類íeiii, e
bít-a(bite)beitbit-ubit-inn
2類jú, jó, úauuo
strk-a(strike)straukstruk-ustrok-inn
3類e, i, jaauo, u
brest-a(burst)brastbrust-ubrost-inn
4類e, oaáo, u, ó
ber-a(運ぶ)barbár-ubor-inn
5類e, iaáe
gef-a(give)gafgáf-ugef-inn
6類aóóa
far-a(旅をする)fórfór-ufar-inn
7類様々様々様々様々
heit-a(呼ぶ)héthét-uheit-inn

7類について。歴史的には、重複(モノにより+母音交替)を行うタイプだったが、古ノルド語では分かりにくい。ポイントは、幹母音がおおむね、不定詞=過去分詞過去共通となること。←違うこともある。重複については、ゴート語も参照。

現在単数形の幹母音は、i-ウムラウトしているのが普通。ただし e は、類推により保存される。←ウムラウトしてない複数との類推? e >i にならない。

graf-a(掘る)>現1 gref, 2/3 gref-r
gef-a(give)>現1 gef, gef-r

2複の -ð は、代名詞 þit, þér の前で落ちる。また、1複の -m は、代名詞 vit, vér の前で落ちることがある。

gef-ið þér >gef-i þér

・接現の幹母音は、不定詞に同じ。また接過の幹母音は、直過の幹母音が i-ウムラウトしたものに等しい。ただし、いくらかの動詞は、ウムラウトしてない形を併用する。

不定詞 gef-a > gef-a 接現1単
直過13単 gaf >gæf-a 接過1単

例:gefa(give)〔強5〕

直説法

現在

SG1gef ゲブgefumk ゲブムク
2gef-r ゲブルgef-sk ゲフスク
3gef-r ゲブルgef-sk ゲフスク
PL1gef-um ゲブムgefumk ゲブムク
2gef-ið ゲビズgefizk ゲビツク
3gef-a ゲバgefa-sk ゲバスク

過去

SG1gaf ガブgáfumk ガーブムク
2gaf-t ガフトgafzk ガフツク
3gaf ガフgaf-sk ガフツク
PL1gáf-um ガーブムgáfumk ガーブムク
2gáf-uð ガーブズgáfuzk ガーブツク
3gáf-u ガーブgáfu-sk ガーブスク

接続法

現在

SG1gef-a ゲバgefumk ゲブムク
2gef-ir ゲビルgefisk ゲビスク
3gef-i ゲビ gefi-sk ゲビスク
PL1gef-im ゲビムgefimk ゲビムク
2gef-ið ゲビズgefizk ゲビツク
3gef-i ゲビgefi-sk ゲビスク

過去

SG1gæf-a ガーバgæfumk ガーブムク
2gæf-ir ガービルgæfisk ガービスク
3gæf-i ガービgæfi-sk ガービスク
PL1gæf-im ガービムgæfimk ガービムク
2gæf-ið ガービズgæfizk ガービツク
3gæf-i ガービgæfi-sk ガービスク

命令法

SG2gef ゲブgef-sk ゲフスク
PL1gef-um ゲブムgefumk ゲブムク
2gef-ið ゲビズgefizk ゲビツク

不定詞・分詞

不定詞gef-a ゲバgefa-sk ゲバスク
現在分詞gef-andi ゲバンディgefandi-sk ゲバンディスク
過去分詞gef-inn ゲビンン
gef-in ゲビン
gef-it ゲビト
gefizk ゲビツク
(中性だけ)

例:grafa(掘る)〔強6〕

直説法

現在

SG1gref グレブgrǫfumk グロブムク
2gref-r グレブルgref-sk グレフスク
3gref-r グレブルgref-sk グレフスク
PL1grǫf-um グロブムgrǫfumk グロブムク
2graf-ið グラビズgrafizk グラビツク
3graf-a グラバgrafa-sk グラバスク

過去

SG1gróf グローブgrófumk グローブムク
2gróf-t グローフトgrófzk グローフツク
3gróf グローブgróf-sk グローフスク
PL1gróf-um グローブムgrófumk グローブムク
2gróf-uð グローブズgrófuzk グローブツク
3gróf-u グローブgrófu-sk グローブスク

接続法

現在

SG1graf-a グラバgrǫfumk グロブムク
2graf-ir グラビルgrafisk グラビスク
3graf-i グラビgrafi-sk グラビスク
PL1graf-im グラビムgrafimk グラビムク
2graf-ið グラビズgrafizk グラビツク
3graf-i グラビgrafi-sk グラビスク

過去

SG1grœf-a グルーバgrœfumk グルーブムク
2grœf-ir グルービルgrœfisk グルービスク
3grœf-i グルービgrœfi-sk グルービスク
PL1grœf-im グルービムgrœfimk グルービムク
2grœf-ið グルービズgrœfizk グルービツク
3grœf-i グルービgrœfi-sk グルービスク

命令法

SG2graf グラブgraf-sk グラフスク
PL1grǫf-um グロブムgrǫfumk グロブムク
2graf-ið グラビズgrafizk グラビツク

不定詞・分詞

不定詞graf-a グラバgrafa-sk グラバスク
現在分詞graf-andi グラバンディgrafandi-sk グラバンディスク
過去分詞graf-inn グラビンン 
graf-in グラビン
graf-it グラビト
grafizk グラビツク
(中性だけ)

参考資料

・下宮忠雄・金子貞雄(2006)『古アイスランド語入門』大学書林.

・Gordon, Eric V., Taylor, A. R.(1981)An Introduction to Old Norse, 2nd ed. Oxford: Clarendon Press.

・Barnes, M., Faulkes, A.(2007)A New Introduction to Old Norse. Part I – Grammar. Viking Society for Northern Research. University College London.