古英語メモ:文字と発音

古英語
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字母・アルファベット

大文字ABCDEFG/ȜHIKLMN
小文字abcdefg/ȝhiklmn
大文字OPRSTUXYZW/ǷÐÞÆ(Œ)
小文字oprstuxyzw/ƿðþæ(œ)

・Ȝ/ȝ, Ƿ/ƿ, Ð/ð, Þ/þ, Æ/æ の呼称はそれぞれ、ヨッホ(yogh)、ウィン(wyn)、エズ(eth)、ソーン(thorn)、アッシュ(ash) 

・Ƿ/ƿ, Þ/þは、ルーン文字由来、Ȝ/ȝはGの変形に由来、Ð/ðはD/dに横棒をつけたもの、Æ/æはA/aと E/eを合わせたもの

・現在、Ȝ/ȝはG/g、Ƿ/ƿはW/wと書かれるのが普通

母音

短母音

aæeiouyœ/oe
/ɑ//æ//e//i//o//u//y//ø/
エァ

・æ について、子音の後では、ちょっと煩瑣になるので、カナは「ア」とする。 fæder ファデル

・y は、いわゆる、唇を突き出して「イ」という感じの音。これができないと「ウュ」「スュ」等々がキツくなるので、練習推奨。 wyrċan ウュルチャン þynċan スュンチャン

長母音

āǣēīōūȳœ̄/ōe
/ɑː//æː//eː//iː//oː//uː//yː//øː/
アーエァーエーイーオーウーユーウー

二重母音

eaeoieio
/æɑ//eo//ie//io/
エアエオイエイオ
ēaēoīeīo
/æːɑ//eːo//iːe//iːo/
エーアエーオイーエイーオ

・ea, ēaのはじめの要素が、[e]ではなく[æ]なのがポイント、しかしカナはとりあえず「エ」とする。

・母音は、舌の位置(高さ・前後)、唇の形(非円唇〔左〕・円唇〔右〕)によって、以下のように分けられる。これは、ウムラウトを考える際に重要。

前舌後舌
i, yu〔円〕
e, œ/oeo〔円〕
æa

子音

bdklmptwx
[b][d][k][l][m][p][t][w][ks]
c[k] a, o, u, y の前cuman(come)クマン
(ċ)[tʃ] e, i の前ċild(child)チルド
g[g] a, o, u, y の前gold(gold)ゴルド
[ɣ] a, o, u の後ろ または 間dragan(draw)ドラガン
(ġ)[j] e, i の前 r, l の後ろġeong(young)イェオング
byrġan(bury)ビュリヤン

・c, g について、上はあくまで目安というか傾向。たとえば [k] になるか [tʃ] になるか、綴りだけでは判定しきれないこともある。

・現代英語からの推定が割と有効(book ブッ だから bōc ボー 的な)だが、完璧とはいかないので最後は辞典を見るしかない。

・そこで、[tʃ], [j](あと後述の [dʒ])の音を表すとき、ċ, ġ のようにドットをつけることがある。ここでもそれに倣う。

f[v] 有声音の間 ofer(over)オベル
[f] それ以外fæder(father)ファデル
s[z] 有声音の間rīsan(rise)リーザン
[s] それ以外sittan(sit)スィッタン
þ, ð[ð] 有声音の間weorþan(become)ウェオルザン
[θ] それ以外þanc(thank)サンク

・þ, ðは入れ替わることがあるが、扱いは同じ。 weorþan⇔weorðan

・複合語の要素間では、有声音の間でも有声化しない…かもしれない。 under-fōn ウンデルフォーン

h[h] 語頭hūs(house)フース
[ç] 前舌母音の後niht(night)ニヒト
[x] 後舌母音の後 または 語末þōht(thought)ソーホト
n[ŋ] [k], [g] の前cyning(king)キュニング
[n] それ以外dōn(do)ドーン
nīwe(new)ニーウェ
r詳細不明 [ɹ], [ɾ], [r] 辺りの音か とりあえずラ行で rīdan(ride)リーダン
z[ts] 音が t-s と続いたときに使用betst ⇔ bezt(best)ベツト
[dz] 外来語bæzare(baptist)バゼレ

その他つづり

pp, ss など、同じ子音字の連続そのまま二重に発音lippa(lip)リッパ
cyssan(kiss)キュッサン
willan(will)ウィㇽラン
sc[ʃ] 語頭にて 母音, r の前scip(ship)シップ
[sk]frosc(frog)フロスク

・語頭の [ʃ] 以外については、c, g 同様、判別がちょっと面倒な模様。

ċġ[dʒ] 語中 または 語末bryċġ(bridge)ブリュッジ
[ndʒ] 語中brean(bring)ブレンジャン
th[t] 外来語Bethulia(Bethulia)ベトゥリア

・[θ] ではないことに注意。

アクセント

3段階(主・副・弱)あったとされる強勢(stress)について、主強勢の位置のみマトメ。

接頭辞なし

多音節語根(root)の第1音節lufu(love)ルブ
単音節その音節gān(go)ガーン
機能語なしswā(so)スワー

機能語:代名詞、接続詞、冠詞、指示詞、語形変化しない副詞

語根(root):語から全ての接辞を除いた部分、基体(base)とも ⇔ 語幹(stem):屈折接尾辞のみカット

接頭辞あり

be-, for-, ge- がつく語根の第1音節be-ġinnan(begin)ベインナン
それ以外がつく 動詞語根の第1音節under-fōn(receive)ウンデルフォーン
        動詞以外 接頭辞un-slāw(energetic)ウンスラーウ

複合語

はじめの要素の第1音節eald-sweord(ancient sword)エアルド スウェオルド

文例(主の祈り)

fæder ūre, þū þe eart on heofonum, sīe þīn nama ġehālgod. ファデル ウーレ スー セ エアルト オン ヘオボヌム スィーエ スィーン ナマ イェハールゴド

tōbecume þīn rīċe. トーベクメ スィーン リーチェ

ġeweorðe þīn willa on eorðan swā swā on heofonum. イェウェオルゼ スィーン ウィッラ オン エオルザン スワー スワー オン ヘオボヌム

ūrne ġedæġhwāmlīcan hlāf sele ūs tōdæġ. ウールネ イェダイフワームリーカン フラーフ セレ ウース トーダイ

and forġief ūs ūre gyltas swā swā wē forġiefaþ ūrum gyltendum. アンド フォリェフ ウース ウーレ ギュルタス スワー スワー ウェー フォリェバス ウールム ギュルテンドゥム

and ne ġelǣd þū ūs on costnunge, ac ālīes ūs of yfele. アンド ネ イェラード スー ウース オン コストヌンゲ アク アーリエース ウース オフ ユベレ

sōþlīċe. ソーズリーチェ

参考資料

・近藤健二・藤原保明(2003)『古英語の初歩』(英語学入門講座第4巻)荒木一雄監修, 英潮社.

・Mitchell, B., Robinson, F. C.(1992)A Guide to Old English, Fifth Edition. Oxford: Blackwell Publishers Ltd.