古ノルド語メモ:動詞:弱変化動詞

古ノルド語
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弱変化動詞

・弱変化では、過去形(および過去分詞)において、歯音 ð(d, t)を含む接尾辞がみられる。

heyr-a(hear)heyr-ði(過3単)heyr-ðr(過去分詞)

上の接尾辞と i-ウムラウトの有無により、以下の3種類に分けられる。例は不定詞と過13単。

接尾辞
1類-ð(d, t)ありheyr-a(hear)heyr-ði
2類-aðなしkall-a(call)kall-aði
3類過去 -ð
過分 -(a)ð
-(a)t
両方vak-a(awake)vak-ði
(過分 vak-at)

1類について。不定詞が ja で終わるものは、a, u で始まる語尾の前をのぞいて、j が落ちる。

telja(数える)tel, tel-r, tel-r(現単)teljum(現1複)

・幹母音は、長語幹では変化しないが、短語幹では、過去形(および過去分詞)に変化がみられる。

不定詞過3単過1複
heyr-a(長)heyr-ðiheyr-ðum
tel-j-a(短)
(j を抜いて考える)
tal-ðitǫl-ðum

 ←実際としては、i-ウムラウトの多少の差。長語幹は全体的に変異しているが、短語幹は現在語幹だけである。なので、実はむしろ、変わってるぽい方が元だったりする。

・変種として、長語幹過去形の幹母音が変わるもの(ウムラウトしてない)、逆に、短語幹で幹母音が変わらないもの(拡張されてる)が多少ある。

不定詞過3単過去分詞
(長)sœk-j-a(seek)sót-tisót-tr
(短)sel-j-a(sell)sel-disel-dr

接尾辞の -ð は、条件によって、以下のように変化した。

無声音の後無声化、後に -t
l, n の後最終的に d, ttal-ði >tal-di
nd, pt の後消失

2類は、現在1人称複数、過去複数、命令法1人称複数で、幹母音が変わる。また、一部の動詞は語幹末に j, v をもつが、それぞれ i, u の前で消失する。

kall-a(call)kǫll-um(現1複)kǫll-uðum(過1複)
byrj-a(始める)byr-(現2複)
stǫðv-a(stop)stǫð-um(現1複)

3類は、2類と同じ箇所で幹母音が変わるほか、接続法過去で i-ウムラウトを受けている。また、一部の動詞は、現在語幹全体で i-ウムラウトがみられる。不定詞が ja で終わるものは、1類と同じ条件で j が落ちる。

vak-a(awake)vǫk-um(現1複)vek-ti(接過3単)
segj-a(say)seg-ir(現3単)sag-ði(過3単)

hafa(have)は、上の混合的な変化をする。全体としては、一般的な3類に倣うが、現在の単数で i-ウムラウトを受けている。

hef-i, hef-ir, hef-ir(現単)hǫf-um(現1複)

例:heyra(hear)〔弱1長〕

直説法

現在

SG1heyr-i ヘユリheyrumk ヘユルムク
2heyr-ir ヘユリルheyrisk ヘユリスク
3heyr-ir ヘユリルheyrisk ヘユリスク
PL1heyr-um ヘユルムheyrumk ヘユルムク
2heyr-ið ヘユリズheyrizk ヘユリツク
3heyr-a ヘユラheyra-sk ヘユラスク

過去

SG1heyr-ða ヘユルザheyrðumk ヘユルズムク
2heyr-ðir ヘユルズィルheyrðisk ヘユルズィスク
3heyr-ði ヘユルズィheyrði-sk ヘユルズィスク
PL1heyr-ðum ヘユルズムheyrðumk ヘユルズムク
2heyr-ðuð ヘユルズズheyrðuzk ヘユルズツク
3heyr-uð ヘユルズheyrðu-sk ヘユルズスク

接続法

・i の音が目立つ感じ。

現在

SG1heyr-a ヘユラheyrumk ヘユルムク
2heyr-ir ヘユリルheyrisk ヘユリスク
3heyr-i ヘユリheyri-sk ヘユリスク
PL1heyr-im ヘユリムheyrimk ヘユリムク
2heyr-ið ヘユリズheyrizk ヘユリツク
3heyr-i ヘユリheyri-sk ヘユリスク

過去

SG1heyr-ða ヘユルザheyrðumk ヘユルズムク
2heyr-ðir ヘユルズィルheyrðisk ヘユルズィスク
3heyr-ði ヘユルズィheyrði-sk ヘユルズィスク
PL1heyr-ðim ヘユルズィムheyrðimk ヘユルズィムク
2heyr-ðið ヘユルズィズheyrðizk ヘユルズィツク
3heyr-ði ヘユルズィheyrði-sk ヘユルズィスク

命令法

SG2heyr ヘユルheyr-sk ヘユリスク
PL1heyr-um ヘユルムheyrumk ヘユルムク
2heyr-ið ヘユリズheyrizk ヘユリツク

不定詞・分詞

不定詞heyr-a ヘユラheyra-sk ヘユラスク
現在分詞heyr-andiheyrandi-sk
過去分詞heyr-ðr ヘユルズルheyrzk ヘユルツク
(中性だけ)

例:telja(数える)〔弱1短〕

直説法

現在

SG1tel テルteljumk テリユムク
2tel-r テルルtel-sk テルスク
3tel-r テルルtel-sk テルスク
PL1telj-um テリユムteljumk テリユムク
2tel-ið テリズtelizk テリツク
3telj-a テリヤtelja-sk テリヤスク

過去

SG1tal-ða タルザtǫlðumk トルズムク
2tal-ðir タルズィルtalðisk タルズィスク
3tal-ði タルズィtalði-sk タルズィスク
PL1tǫl-ðum トルズムtǫlðumk トルズムク
2tǫl-ðuð トルズズtǫlðuzk トルズツク
3tǫl-ðu トルズtǫlðu-sk トルズスク

接続法

現在

SG1telj-a テリヤteljumk テリユムク
2tel-ir テリルtelisk テリスク
3tel-i テリteli-sk テリスク
PL1tel-im テリムtelimk テリムク
2tel-ið テリズtelizk テリツク
3tel-i テリteli-sk テリスク

過去

SG1telð-a テルザtelðumk テルズムク
2telð-ir テルズィルtelðisk テルズィスク
3telð-i テルズィtelði-sk テルズィスク
PL1telð-im テルズィムtelðimk テルズィムク
2telð-ið テルズィズtelðizk テルズィツク
3telð-i テルズィtelði-sk テルズィスク

命令法

SG2tel テルtel-sk テルスク
PL1telj-um テリユムteljumk テリユムク
2tel-ið テリズtelizk テリツク

不定詞・分詞

不定詞telj-a テリヤtelja-sk テリヤスク
現在分詞telj-andi テリヤンディteljandi-sk テリヤンディスク
過去分詞tal(i)ðr タルズルtal(i)zk タルツク
(中性だけ)

参考資料

・下宮忠雄・金子貞雄(2006)『古アイスランド語入門』大学書林.

・Gordon, Eric V., Taylor, A. R.(1981)An Introduction to Old Norse, 2nd ed. Oxford: Clarendon Press.

・Barnes, M., Faulkes, A.(2007)A New Introduction to Old Norse. Part I – Grammar. Viking Society for Northern Research. University College London.