古ノルド語メモ:文字と発音

古ノルド語
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字母・アルファベット

ABDÐE(Ę)FGHIJKLMN
abdðe(ę)fghijklmn
OPRSTUVXYZÞÆŒØǪ
oprstuvxyzþæœøǫ
ÁÉÍÓǪ́ÚÝ
áéíóǫ́úý

ǫ́は、本当は下がくっついているのだが、環境によりきちんと映らない模様。

・黄色のとこは 参考3書のうち、Gordon にしかないもの。

母音

短母音

aeęiouyøø2ǫ
/ɑ//e//ɛ//i//o//u//y//ø//œ//ɒ/
/ɔ/

長母音

áéíóǫ́úý
/ɑː//eː//iː//oː//ɔː//uː//yː/
アーエーイーオーオーウーユー
æœ
/æː//øː/
エァーウー

無強勢母音 a, i, u は、とりあえず上と同じように。

二重母音

aueiey
/ɒu/(/ɔu//æi/(ɛi/ey/(ɛy
アウエイエユ

・au, ei は、それぞれ「オウ」「エァイ」が近そうだが、とりあえず上のように。

母音の組織

・ざっくり母音組織。œ は短のみ、æː は長のみ。非円唇、円唇。

前舌後舌
狭(高)i, yu(円)
e, øo(円)
半広ɛ, œɔ(円)
広(低)æː(非)ɑ, ɒ

子音

・当座としては、まずは表の部分だけでもいいかなあ…と。残りは徐々に。

bdjklmrs
[b][d][j][k][l][m][r][s]
tvþðxz
[t][w][θ][ð][xs][ts]

v は [v] または [β] とする場合もあるが(ていうかそれが普通?)、ここではとりあえず [w] とする。なお [v] の場合 hv はおそらく [xf] のようになる。

þ と ð について。もともと þ だけで [θ], [ð] の両方をあらわしていた。しかし 1225年ごろ ð が導入され、語頭で þ を、それ以外の位置で ð を使うようになった。そのとき、þ は [θ] だけを、ð は、無声子音の後にくるとき(←レア)をのぞき、[ð] だけをあらわした。

f[f] 語頭、無声子音の前fé(お金)フェー
[v] それ以外haf(大洋)ハブ

・[v] は、後に鼻音がくると鼻音化する模様。←jafn ヤムン?

p[ɸ] s, t の前lopt ロフト
[p] それ以外vápn(weapon)ワープン
g[ɡ] 語頭
   後に s,t がこない ng
gefa(give)ゲバ
ungr(young)ウングル
[x] s, t の前
(ng-s, t は [ŋk] もあり)
lágt ラーハト
ungs ウンフス
[ɣ] それ以外eiga(所有する)エイガ

(硬)口蓋化(←子音が i 的な音を帯びる)について。上記 [ɣ]、ng は、語中で i, j の前にくるとき、すでに文献時代(literary period)以前に、口蓋化していた。また、語頭の [ɡ] は、13世紀後半には、前舌母音または j が後に続くとき、口蓋化しつつあった。[k] も同じように変化した。←gefa ギェバ?

gg[xː] s, t の前
([kː] もあり)
gløggt グルッフト
[ɡː] それ以外egg(edge)エッグ

・上以外、bb, dd, ff, kk, ll, mm, nn, pp, rr, ss, tt は、基本的にそのまま二重に読む。

h[ç] j の前hjarta(heart)ヒヤルタ
[h] それ以外horn(horn)ホルン

語頭の hl, hn, hr は、無声化した l, n, r をあらわす(←2文字1音)。hv は、おそらく [xʷ], [hʷ], [ʍ] 辺りの音。14世紀には、いくらかの方言で hv >kv となった。←現代アイスランド語 hvað(何)クバーズ

・また、l, n, r は、以下の条件で無声化する。

l, n語末で、無声子音の後
無声子音の間
vatn(water)
vatns
r無声子音の後drykkr(drink)

 ←つまり、無声子音の後にきたら同化。

n[ŋ] g, k の前hringr(ring)フリングル
[n] それ以外hrianda(押す)フリアンダ

・ng について、g を別に読んでいる([ŋg])ことに注意。

ʀ詳細不明、文献時代の前に起こり、後に r と同じ音となる

文例(主の祈り)

faðir várr, sá þú ert í hifni, helgisk nafn þitt. ファズィル ワールル サー スー エルト イー ヒブニ ヘルギスク ナブン スィット

til komi þitt ríki. ティル コミ スィット リーキ

verði þinn vili, svá á jǫrð sem á hifni. ウェルズィ スィンン ウィリ スワー アー ヨルズ セム アー ヒブニ

gef oss í dag várt dagligt brauð. ゲブ オッス イー ダグ ワールト ダグリフト ブラウズ

ok fyrirlát oss várar skuldir, svá sem vér fyrirlátum várum skuldu-nautum. オク フュリルラート オッス ワーラル スクルディル スワー セム ウェール フュリルラートゥム ワールム ワールム スクルドゥナウトゥム

ok inn leið oss eigi í freistni. オク インン レイズ オッス エイギ イー フレイストニ

heldr frels þú oss af illu. ヘルドル フレルス スー オッス アブ イッル

参考資料

・下宮忠雄・金子貞雄(2006)『古アイスランド語入門』大学書林.

・Gordon, Eric V., Taylor, A. R.(1981)An Introduction to Old Norse, 2nd ed. Oxford: Clarendon Press.

・Barnes, M., Faulkes, A.(2007)A New Introduction to Old Norse. Part I – Grammar. Viking Society for Northern Research. University College London.